岩手県奥州市のペットショップで犬や猫など動物約300匹が取り残され、岩手県が緊急保護した問題で、県との協定に基づき動物を引き取った団体が取材に応じ、保護時の状況を明らかにした。担当者は「今後譲渡を進め、全ての動物の命を救えれば画期的な事例になる」と意義を語った。(盛岡総局・石沢成美)

■協定通し信頼関係構築

 動物を保護したのは、雫石町の動物愛護団体「動物いのちの会いわて」。命の危険がある動物の保護や譲渡を担う。今回、犬猫計60匹を引き取った。メンバー11人で診察やワクチン接種など譲渡の準備を続ける。
 代表の下机(しもつくえ)都美子さん(71)が県の要請を受け、ペットショップを訪れたのは6月24日。中に入ると、壁や床に染み込んだ動物臭が鼻を突いた。積み上がったケージには、栄養不足で毛が細くなった犬、耳に傷のある猫がいた。出産間近の猫も複数見つかった。
 「すぐにでも連れて帰らないといけない」と判断。その日のうちに、治療が必要な20匹を連れ帰った。
 ショップは約15年前から、台帳管理の不備やケージ不足で県から指導を受けていた。県は、年1回義務付けられた訪問調査を月1回に増やし、ボランティアも世話に通ったが、改善のないまま経営者は死亡した。
 下机さんは「もう少し早く助けたかった。今は残された子たちを救うだけ」と保護に力を注ぐ。
 「いのちの会いわて」は2008年、県と災害時の動物救護活動協定を結び、東日本大震災でも飼い主が分からない動物の救護などに当たった。
 今回、犠牲を出さず約300匹もの動物を保護できた経緯について、下机さんは「協定締結や災害での救護経験を通し、県と各愛護団体の信頼関係があった」と説明する。県が全頭を引き取り、調整を担うことで、県内の複数の愛護団体への計画的な受け渡しが進んでいるという。
 そんな中、交流サイト(SNS)では「殺処分されようとしている」と誤った情報が拡散。いのちの会にも「保護は寄付金集め目的では」などと批判するメールが数十通届いたという。
 下机さんは「1匹でも譲渡できれば、空いたスペースに新たに動物を引き取ることができる。正しい情報を得てもらい、譲渡に協力してほしい」と話す。
 譲渡会は矢巾町で16、17日、花巻市で23、24日に開催する。譲渡の対象は県内在住者。連絡先は動物いのちの会いわて019(691)1770。